歯の喪失と認知症

「噛む」と「咬む」の違いとは

「噛む」は、奥歯で咀嚼をするという意味で、奥歯の仕事です。「咬む」は、かみつく、動物であれば牙でかむという意味で、主に前歯の仕事です。

噛むことによる色々な効果

■脳を活性化
咀嚼は、知能の発育や情報を促進し、運動神経を活性化させ瞬発力を増強させます。
■審美的効果(顔の輪郭を保つ)
元気で若々しい顔貌が社交性を維持します。(アンチエイジング)
■家族生活への影響
家族そろって同じメニューの食事が楽しめ、一家団欒の素因となります。また、単一メニューは家事労働の負担を軽減します。
■食物を細かくし、唾液を混ぜる
よく噛んで食べる事で胃腸での消化を助け、唾液の抗菌作用が細菌ウイルスを不活性化させます。
■唾液腺ホルモンの分泌
皮膚や血管、胃腸を若々しくし、脳の老化を防ぎ成人病やボケを予防します。
■精神的効果
何でも食べられるという満足感と食生活への自信が生きる意欲を助長します。

歯と認知症の関係

日本人の75歳以上の健常者に残っている歯の平均本数はわずか9本。先進国の中でも、そのレベルは低いと言わざるを得ないと思います。
では、歯を失うことで、脳にどのような影響が出てくるのか。ネズミによる実験では、歯を抜いたネズミには、学習・記憶力が著しく低下するという結果が報告されています。
実際、残歯率の低いアルツハイマー型認知症患者の脳をMRI(磁気共鳴画像装置)で撮影してみると、大脳の容積や、学習・記憶力を司る脳の海馬付近の神経線維が減少しているとの報告もあります。
歯は単に「ものを噛む」働きだけでなく、歯を包む歯根膜から神経を通じて、脳への刺激を送る役割も果たしています。咀嚼による刺激で、脳の中での血流量が2倍に増加し、脳が活性化されているのです。
前述の通り、75歳以上の健常者の残歯数が平均9本なのに対し、アルツハイマー認知症患者の残歯数は平均して3本程度。この調査結果からも、「歯が残っているか否か」と認知症発症との関連性が高いことがうかがえます。

歯の健康診断を受けましょう

「80歳になっても自分の歯を20本保とう」という「8020運動」が提唱されるようになって20年になります。平均寿命が男女共に80歳近くになる日本の社会では、「死ぬまで自分の歯でものを食べる」ということは、この先ますます進む高齢社会において、非常に重要な意味を持っています。
また、歯がなくなれば、味覚が鈍ってQOL(生活の質)が低下します。そのためにも、歯を失う原因となる虫歯や歯周病予防に努める必要があります。また、たとえ歯を失っても、しっかり合った入れ歯を入れておくことが大切です。お口の中も、車やお庭のように定期的なメンテナンス(お手入れ)が必要なのです。
歯周病予防は生活習慣病をはじめ、全身疾患の予防にもなるので、毎年1度の健康診断と一緒に、歯の健康診断も受けることを習慣にしてほしいと思います。

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